我が家の長男はとにかくよく泣く子だった。夜泣きは新米母のメンタルをひどくえぐってくれる。
どこか痛いの?何が辛いの?どうしたらいいの?私の何が間違ってるの?
毎晩繰り返される自問自答に明確な答えなどなく、仕事を持っている私は疲労困憊だった。
近所に実家もなく、ワンオペ育児の私は当時、本当に孤独だった。
夫はなぜ寝ていられるのか、と矛先がそちらに向く事もしょっちゅうあり夫婦仲もギクシャクしていった。
ある日、睡眠不足で真っ赤な目をして出勤した私に、職場の先輩ママが声をかけてくれた。
「疲れてるみたいだけど大丈夫?」
その一言は天から届く神の声に聞こえた。
私は息子の夜泣きでほとんど眠れていない事を打ち明け、話しながら嗚咽がもれる程泣いてしまった。
先輩はひとしきり私の愚痴を聞いたあと
「寝るのが下手な子は泣くのが上手。眠くなっても寝付けない事をただ『泣く』という手段で表現しているだけ。それは誰のせいでもなくその子の持っている個性で、いつか泣くという手段ではなく《本を読んで》とか《隣でトントンして》と言えるようになる」
と教えてくれた。
「だから泣く理由を探すだけ無駄。耳栓して寝ちゃいなさいよ。うちもそうだったなあ。」
と言ってくれた。そして
「父親がいるんだから、せめて休みの前日は寝かしつけを変わってもらってあなたの苦労を教えてあげなさいよ。うちはシングルだったから私の心身の健全を守るために耳栓して寝てたけどね。」
とカラカラ笑った。
その週末、私は夫に相談し、自信がないだの最近忙しいだの逃げ腰の夫と、すでに夕刻からぐずり出した息子を置いてビジネスホテルに一泊した。
しかし、ホテルで寝ようとしても息子の泣き叫ぶ声とオロオロする夫、知らん顔の夫が頭に浮かび、私はなかなか眠れなかった。
翌朝はチェックアウトの時間を待たずに、そそくさと家へ帰った。
玄関を開けると家の中は静まりかえっていた。リビングは、毛布に哺乳瓶、ありとあらゆるおもちゃが散乱し、その中で息子と夫が大の字になって眠っていた。
私がそれを片付ける気配で夫が目を覚ました。
「こいつ、なかなかのツワモノ。参ったわ。」
夫は目をこすりながら苦笑いをし、戦い終えたアスリートのように両手を伸ばしたり首をコキコキした。軍配はやはり息子に上がった様子である。
しかし、その日を境に息子の夜泣きが始まると夫は起きてきて
「変わろうか?」
と声をかけてくれるようになった。
何をしても泣くんだから・・・と時に二人して息子の横で、卓上ゲームをする開き直りの夜明かしもできるようになった。
そのうち、梅雨が明けるように息子の夜泣きという大雨の日が減っていき、気づいたら終わっていた。
夜泣きをする大人を皆さんは見た事があるだろうか。
夜泣きはいつか終わる。誰のせいでもない。うちの子はエネルギッシュなんだ。とどうか前向きに受け止めてほしい。
・・・・・しかし・・・その後も長男をめぐってはいろいろな試練がまってるのであった。
🌸その話はまた次回🌸